Accueil / ミステリー / クラックコア / 第048-1話 詰まらない男

Share

第048-1話 詰まらない男

Auteur: 百舌巌
last update Dernière mise à jour: 2025-02-24 10:33:22

廃工場。

 ディミトリとアオイの二人は、目的の金を手に入れたので廃工場に戻ってきた。

 水島は椅子に縛られたままグッタリとしていた。

『起きろ!』

 ディミトリは水野たちを襲撃した時に被っていたマスクで声を掛けた。声も同じ様に変声アプリで変えている。

 アオイは少し離れた壁際で、手を後ろに回して座っていた。一見すると拘束されているように見える。

「!」

 目を開けた水野はマスクを被った男に気がつくと驚愕していた。そして、縛られた身体を捻るようにしながら必死に逃げようとしている。しかし、結束バンドで両手両足を椅子に固定されているので自由にならない。

「て、テメエはっ!」

「解けっ!」

「ぶっ殺してやるっ!」

 ディミトリは暴れる水野を革バットで殴りつけた。鈍い打撃音が室内に響き渡る。

『金はどこにある?』

「知らねぇって言ってるだろ!」

 ディミトリは革バットで水野を殴りつけた。水野の口から歯がこぼれ落ちた。奥歯が折れたのであろう。

『ちゃんと質問に答えろ』

「いえ、知りません……」

 ディミトリは革バットで水野を殴りつけた。

『金庫の鍵は持っているのに金庫の場所は知らないっていうのか?』

「え?」

 ここで、水野はマスクの男が自分の独り言を知っている訳に気が付いた。目をパチパチしながら視線が泳いでいるのが分かる。

 ひどく動揺しているのであろう。

『もういい…… お前が嘘付きだってのは良く分かった』

 ディミトリはディバッグの中身を水野に見せた。そこには金の札束が詰まっていた。

「え?」

『台所に有ったよ……』

「知っているのなら……」

 水野は俯いている。どうやら万事休すだと思い知ったようだ。だが、肝心の話はこれからだった。

 アオイの件を片付けなければならない。金だけだったら身柄を拐う必要が無いからだ。

『で、この女は誰だ?』

「知らねぇよ!」

 ディミトリは再び革バットで水野を殴りつけた。ここからが肝心な部分だ。彼の希望を打ち砕く必要がある。

 そうしないと本当の事を話さないであろう。

『ちゃんと質問に答えろ』

「知りません」

『そう、それで良い。 だったら、何で一緒に居たんだ?』

「……」

 水野は黙り込んだ。どこまで話して良いのかを思案しているのであろう。だが、それもディミトリの計算の内だ。

「その人は妹のストーカー男の事で、私の周りをウロツイて居たんで
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Related chapter

  • クラックコア   第048-2話 御伽噺を信じる者

    『じゃあ、これからは巧く逃げる事だな……』「え?」『公園で女と待ち合わせしてから、何日経っていると思ってるんだ?』「え?」『どうして金庫に有るはずの金を俺が持っていると思うんだ』「……」『大山ならとっくに釈放されたよ』 もちろん嘘だ。だが、気を失っていた水野にはバレないはずだ。『大山も神津組も、お前が金を横領したと思っている……』「ちょ!」『そう、思わせるように工作しておいた』「なんて事をしてくれたんだ!」『お前らは悪戯が過ぎたんだよ……』「金をかっさらったのはお前だろうがっ!」『知らない男に拉致されて金を奪われました…… そんな眠くなりそうな御伽噺を誰が信じるんだ?』「大山なら信じてくれるはず……」『スジモンの拷問がエグい事は知らない訳じゃないだろ』「……」『耐えられるのかね?』「くっ……」『ふん……』 ディミトリは頭の後ろで、マスクを固定していたバンドを緩めた。「それに大山って奴なら神津組が連れて行ったぜ?」 被っていたマスクを取りながら言った。「小僧……」 水野は自分を脅していたのが、童顔の小僧だと知って驚いていた。だが、直ぐに顔を真っ赤にして激怒しはじめた。 しかし、直ぐに怪訝な表情になった。「あれ? お前って……」 どうやら若森忠恭である事に気が付いたようだ。 それと時を合わせるかのように、後ろに手を組んで座っていたはずのアオイが、手を払いながら立ち上がってきた。 呆けた顔で二人を見比べた水野は、ここに至ってようやく気が付いた。「お前らはグルだったのか!」 水野はディミトリに掴みかかろうと一歩踏み出した。ディミトリはナイフをチラつかせて見せた。 彼はナイフを見て怯んだ。自分は手ブラの状態だからだ。しかも、これから神津組から逃げる算段をしないといけない。 ディミトリの言う通り金を取られてしまったなど信じてもらえないだろう。喧嘩などしている場合では無いのだ。「クソっ!」 ディミトリは無言でナイフで追い払う仕草をしてみせた。水野はがっくりと肩を落として出口に向かおうとしていた。 だが、机の上に置かれたナイフが水野の目に止まった。すると、水野の怒りが爆発したようだ。 水野は机の上に有ったナイフを掴んだ。そして、そのままディミトリに向かって突進してきた。 次の瞬間。ドンッ 背中から銃

    Dernière mise à jour : 2025-02-25
  • クラックコア   第049-0話 無人化ノード

    自宅。 廃工場に有った水野の死体は網に入れて下水の中に吊るしておいた。こうすると、日常の排水で死体が削られて、骨だけになるのが早いのだ。おまけに遺体独特の悪臭も防げる方法だった。 このやり方はロシアのマフィアが好んだやり方だ。 何故、知っているのかというと、少年時代に悪さをして捕まった時。警察の留置所で、同房のマフィアのおっさんに教わったからだ。彼は生意気そうな小僧に自慢したかったのだろう。 まさか、見知らぬ国で役に立つとは思わなかった。 詐欺グループから戴いた金はアオイに預かって貰っていた。 大金過ぎてどこに隠すかを考えていなかったせいもある。また、捨てられたら敵わない。 数日、経って詐欺グループのマンションで動きが有った事が分かった。 水野の携帯電話を盗聴モードにしたまま、家で盗聴してそれを録音をしていたのだ。 日中は学校がある。中学生らしく塾に行くし、ちょっと銃で撃たれたりして忙しい。 それに傷の経過をアオイに見てもらったりする必要もある。 最初は部屋の中にドタドタと足音が響いていた。水野を呼ぶ声も聞こえる。『あっ、金がねぇ!』『どういう事だ? あっ??』『金庫の中の金が全部無いんです……』 大山と思わしき声が録音されていた。別の人物の声が聞こえる。 これ見よがしに金庫は開けっ放しにしておいたのだ。水野の荷物と思われる物も運んでおいた。 彼らは直ぐに何が起きたかを理解したらしい。『どうすんだ? オマエ??』『……』『お前がサツにガラ拐われたって言うから、今まで待ってやったんだろ?』『いや、水野に金を持ってかれたみたいで……』 別の人物の声が大きくなるのに比例して大山の声は小さくなっていった。 どうやら大山は神津組の連中と一緒のようだ。釈放されて警察から出た所で捕まってしまったのだろう。『それが組と何の関係があるんだ?』『でめえのダチの不始末だろ?』『舐めてるんか?』 何やらドスの聞いた声が聞こえる。録音を聞いていても分かるぐらいに険悪な空気に成った。 すると何やらひとしきり殴打する音や、何かが暴れる音が響いて急に静かになった。 その後、何かを引きずる音が聞こえた後は静かになった。 これで詐欺グループの連中にも罰が下ったのだろう。「クスクス……」 ディミトリは録音を聞きながら笑い声を漏らしていた。

    Dernière mise à jour : 2025-02-26
  • クラックコア   第050-0話 好みの問題

    大山病院。 翌日、ディミトリは大山病院に来た。アオイに電話してもメールしても連絡が付かない。 そこで、直接会いに来たのだった。 鏑木医師が死んでから大山病院には来ていない。誰が鏑木医師の仲間なのか不明だからだ。 それに、中華系の連中の動向も掴めていない。鏑木医師が死んだのに何もアクションを起こして来ないのも不気味だ。(追跡装置で把握しているだろうに……) 彼らはディミトリの住んでいる場所も行動範囲も知っているはずだ。(或いは知っているから泳がせているつもりなのか……) つまり、何も分からない状態で、ノコノコと大山病院に来るのは危険な行為なのだ。 だが、今回は事情が違っている。金を持ち逃げされようとしているのだ。危険を犯すだけの価値は有りそうだった。(折角、苦労して手に入れた大金を諦めるわけにもいかないしなあ……) だから、危険を承知の上で大山病院にやって来たのだ。 正面の入り口を入って、直ぐに受付には行かずに長椅子に座って周りを見渡していた。 誰かがディミトリを注視しているようなら、直ぐに逃げ出すためにだ。 病院には雑多な人がやってくる。病気の人は勿論の事、入院患者の見舞いや出入りの業者などだ。人が多いので誰も一介の中学生には目もくれないはずだ。そんな中で目を合わせる人物が居たら、自分を監視しているという事だ。 幸い、誰も自分を見ていないようなので受付の前にやって来た。受付で兵部葵を呼び出して貰おうとしたのだ。 しかし……「兵部さんなら一昨日退職なされましたよ?」 受付の女性にあっさりと告げられてしまった。その事にディミトリは唖然としてしまった。「ええ? 随分と急ですよね??」「はい、私達も戸惑っております」 その割には淡々と告げる受付の女性。「どうしてなのか分かりませんか?」「はあ、自己都合なので詳細はお教え出来ません」 にこやかに答えるが目は笑っていない。少し警戒しているのかも知れなかった。「そうですか…… 何とか連絡先とか教えて貰えないでしょうか?」「それは個人情報保護の問題も有るので出来かねます」 そう言って頭を下げた。この話はここで終わりということだろう。 病院は患者個人のデリケートな問題を取り扱う。なので、個人情報の扱いはかなり厳しい。それは医療関係者にも当てはまるのだ。一般市民が尋ねても教えて貰

    Dernière mise à jour : 2025-02-26
  • クラックコア   第051-0話 危険な路地裏

    隣町。 ディミトリはアオイの携帯があると思われる場所に来ていた。 一見すると雑居ビルだ。繁華街という訳ではないが、メインの通りに面している。車や人の往来も多い。 なぜ、ここなのかが謎だが、とりあえず反応はあるのでビルが見える場所に立っていた。 都合の良い事に、付近にはスマートフォンを覗き込んでいる老若男女が沢山居る。何でもモンスターをハントするのがどうしたと話していた。(ニホンと言う国には、街中にモンスターが居るのか…… 流石、何でも有りの国だな……) ディミトリには意味不明なワードだったが、雑多な人が居るので紛れ込むことが出来るのはありがたかった。 彼は周りの人々に合わせて、スマートフォンを覗き込んでいる振りをしながらビルを監視していた。 だが、人の出入りが少ないビルらしく、到着してから一時間が経とうとしているのに誰も出入り口に現れなかった。 人の多い所で声を掛けて騒がれるのも面倒だ。後を付けて人通りの少ない頃合いを見て声を掛けようと考えていた。(やはり、中に入って探したほうが早いのかな?) いい加減焦れて、中に入って探そうとした時に一人の女の人が現れた。(あれ? アオイじゃない……) だが、それはディミトリの期待したアオイでは無く、妹のアカリの方だった。(スマートフォンは彼女が持っていたのか?) 彼女は駅の方向に歩いて移動しようとしている。目的は不明だが、ディミトリは後を付いて行こうと歩き出した。 たぶんアオイと合流するのだろうと考えたのだ。違うようなら彼女に話を聞けば良い。(ん…… なんだ?) だが、直ぐにある事に気が付く。それは、ディミトリが歩き出すと同時に動き出す車が居たのだ。 ビルのガラス窓に映し出されている事に気が付いたのだ。「……」 そっと、後ろを見ると黒いサングラスした男が運転していた。車の窓にはスモークが貼られて中が見えないようにされている。 中々に胡散臭い仕様の車だ。それでも、普通に過ごす人なら偶然かもしれないと考える。 だが、ディミトリには色々と事情を抱えている。(病院から付けられてしまったか……) その色々に思い当たる事があるディミトリは、車に載っている連中の目的は、十中八九自分であろうと考えた。(参ったね……) アカリを見失わない様にしつつ、後ろの車にも注意を払わねばならなくなった。

    Dernière mise à jour : 2025-02-27
  • クラックコア   第052-1話 巧みな操縦技術

    隣町。「ちょっ、マテヨ!」 いきなりの展開でディミトリは慌てていた。目の前でアオイに繋がる手がかりが拐われてしまったのだ。「逃がすかっ!」 追いつく可能性が無いのに走り出してしまったのだ。逃げる物を追いかけるのはハンターの習性であろう。 だが、冷静に成ってみればアオイの携帯電話には、位置情報発信アプリを仕込んである。別に慌てなくても良かったのだ。 しかし、急な出来事ですっかり失念してしまっていた。 車は傾斜地特有のクネクネとした道で下っていこうとしていた。「くそっ! まてーーーっ!」 ディミトリは後を追いかけるが、人の足で追いつけるものでは無い。みるみる内に差が開いてしまう。 ふと見るとキックボードが棄てられていた。細長い板状の台にちっこいタイヤが付いた子供用の玩具だ。片足で地面を蹴りながら進んでいくようになっている。(よしっ! コイツを使って追い駆けるっ!) ディミトリはキックボードを片足で漕ぎ始めた。坂の上であるのでキックボードはみるみるうちに速度を上げていく。 カーブに差し掛かると車は安全のために減速せざるを得ない。しかし、ディミトリは減速をせずにカーブに突入していった。キックボードにはブレーキが付いていないのだ。 ディミトリは身体を地面スレスレに傾けてキックボードを制御している。(こっちの方が小回りは有利だぜ!) しかし、直線になると車が有利だ。アッという間引き離される。ディミトリは必死に地面を蹴って走らせた。「何だ?」「何が?」「後ろから変なのが追いかけてきている……」 車内に居た全員が後ろを振り返った。すると、車に追いつこうとしている少年の姿が目に入った。 アカリには少年がディミトリであると直ぐに分かった。(え? どうして若森くんが居るの?) 不思議な事に唖然としていたが、車内の男たちには知り合いだとは教えずにいた。車には運転手の他には一人いる。 二人共、ディミトリの事は知らないようなので、教える必要は無いと考えたのだ。「あれって子供用の奴だよな…… キックボード?」「だよな?」 全員が注視していると、ディミトリはカーブを器用に曲がってきている。「何てヤツだっ! カーブをカウンターを充てながらキックボードで曲がって来やがった!」 アカリの隣にいた男が変な関心をしていた。「おおお! 無駄にスゲェ

    Dernière mise à jour : 2025-02-28
  • クラックコア   第052-2話 踊る坂道

    (ああ…… もう直ぐ坂道が終わる…… そうだっ!) ディミトリは足でブレーキを掛けるように踏ん張り無理やり方向転換した。 丘には上り下りするのに便利なように、住人用に階段が付いているのだ。 車道だとかなりの距離を移動しないといけないが、階段は直線なので距離が稼げるのだ。そこをディミトリはキックボードで一気に駆け下りていった。「ぬうおおおぉぉぉっ!」 眼下に街並みが一望できた。眺めは良いが階段をキックボードで降りるのには不向きなのは確かだった。「あがあがあが……」 階段を下りる衝撃で振動がディミトリを襲う。だが、階段を猛スピードで降りながらふと気付いた事がある。(で…… 追い付いてどうする?) 追いかけるのに夢中で停止させる方法を考えていなかった。(ヤバイヤバイヤバイ) もう直ぐ坂道が終わってしまう。此処で逃がすと二度とアカリに会えないのは間違い無い。 ディミトリは銃撃を行う事に決めた。人目を気にしている場合では無いようだ。ガンッ その時、縁石にぶつかった衝撃でキックボードが跳ね上がってしまった。「うおおおぉぉぉっ!」 ディミトリはカーブミラーの支持棒を掴み、回転を利用してキックボードを車に向かってはじき出した。 キックボード本体で車の運転席側を狙ったのだ。 少しでも速度を緩めてくれれば銃を取り出す時間が稼げる。そう考えたのだ。「うぉわっ!」 車の中で男たちが一斉に叫んだ。変な少年が追いかけて来たばかりか、キックボードを蹴り出して空中を飛ばして来たのだ。 誰でもビックリしてしまう。ガキンッ だが、ほんの少しタイミングが早かったようだ。それと斜めにぶつかってしまったせいもある。 キックボードは車のフロントガラスに、少しだけぶつかったが弾き返されてしまった。「危なかった……」 車の男たちは束の間ホッと胸を撫でおろした。大した影響が無かったからだ。 そして、そのまま車はアカリを載せたまま走り去ろうとした。 だが、運の悪い事に大型トラックがバックで出ててきた。 アカリを載せた車の運転手は、キックボードに気を取られて他所見していたのだ。「あっ!」 車はトラックを避けることが出来ず、荷台に激突してしまい停車した。急ブレーキを掛けたが間に合わなかったのだ。(チャンスっ!) 車が停車したので追いつけると喜んだディミト

    Dernière mise à jour : 2025-03-01
  • クラックコア   第053-0話 玩具の限界

    隣町の丘の下。 白い車から降りてきた男たちが銃を構え始めた。それと同時にトラックの助手席側のドアが開き男が降りてくる。(こいつら全員グルなのかっ!)ビュッ! トラックから降りてきた男に最初の銃弾を送り込む。男は腹に衝撃を受けて後ろに倒れ込んだ。 サプレッサーの防音材が共振しているのか妙な音が響いた。「當心,拿著槍(気を付けろ、銃を持っているぞ)」「轉到對面放入,轉擁擠到對面(向こうに回り込め、向こうに回り込め)」 白い車の男たちの方から怒鳴り声が聞こえる。中国語なのは聞いただけでディミトリには分かった。(中華系の連中か!) 妙に大人しいと思っていたが、このチャンスを窺っていたのであろう。 彼らはディミトリが銃を持っているのを知っているはずだからだ。ビュッ!ビュッ! トラックの荷台越しに男たちに二発発射した。一発は車に、もう一発は地面に当たった。男たちは慌てて車に隠れる。 当たらなくても良い、牽制して逃走する時間を稼ぎたかっただけなのだ。「走って!」 ディミトリはアカリの襟首を掴んで先を急がせた。 アカリは訳が分からなかった。普通に歩いていたら、変な男たちに車に押し込められた。これだけでも大事なのに、次は見知らぬ男同士が銃撃戦をしている。 しかも、横にはディミトリが銃を片手に応戦しているのだ。戸惑わない方がおかしい。(荒っぽい仕事が好きな連中だな……)ビュビュビュッ!ポンッ! 男たちが再び車の影から出てこようとしたので再度連射した。しかし、最後の弾で異音が聞こえてしまった。(くそっ! サプレッサーがいかれちまったか……) ディミトリはサプレッサーの穴塞ぎ用のゴムが駄目になったのだと悟った。(連射に向いてないのは分かっていたけどな……) サプレッサーには銃弾を通すために穴が貫通しているが、防音効果を高めるために硬質ゴムで蓋をしてある。ドアの様に銃弾が通過した後に塞がるようにしてあるのだ。 だが、発射薬の強力な火力でゴムが徐々に駄目になる。段々と音が漏れるようになってしまうのだ。これがサプレッサーに寿命があると言われる所以だ。 ディミトリの自作のサプレッサーは、このゴムの材質が拙かったようだ。初めての試作だから仕方が無かったのかも知れない。ポンッ! 違う男が顔を出したので威嚇用に一発撃つが異音はしたままだ。男は肩

    Dernière mise à jour : 2025-03-02
  • クラックコア   第054-1話 友達の車

    大型ショッピングセンター。 ディミトリとアカリは大型のショッピングセンターにやってきた。その店は敷地内の駐車場が満杯になった時用に、離れた空き地に駐車スペース設けている。 そこに強奪した車を止めた。青年が警察に通報しているかも知れないからだ。(利用料金を十万程ダッシュボードに置いておくと言えば良いか……) ショッピングセンターから可愛そうな青年に電話する事にして、今後の事を考えねばならなかった。(一旦、家に帰ってサプレッサーを作り直さないと……) 手元にあるサプレッサーは用をなさない。今回の銃撃戦で交換用の弾倉がもっと必要な事が分かった。 これはミリタリーオタクの田島に頼んで譲って貰おう。 拳銃に付属していた弾倉はグラつきが有ったが、手持ちのモデルガンの弾倉はグラつきが無かった。玩具と思っていたが、中々使いでが良かったのだ。もちろん、改造は必要だがどうという事は無い。(多人数相手だと弾がいくら有っても足りない……) 普段、使っているのはアサルトライフルだ。携帯する弾も百~二百がせいぜい。多数の弾倉の携帯は行動を制限されてしまう。 それに兵隊の時には、突撃する者・支援火力を張る者と役割が分かれていたので、弾がそれほど必要が無かったのだ。(そう言えば拳銃が必要な場面って無かったからな……) 拳銃は戦局が駄目詰まりな状況で、ライフルの弾が無くなるような最後の最後で使うような物だ。なので、さほど重要視していなかったせいもある。それに拳銃が必要な場面に遭遇していたらディミトリは生き残ってこれなかったであろう。(まあ、サプレッサーをどうにかするのが先だな……) そんな事を考えながら、ショッピングセンターに向かって駐車場を歩いていると一台の車が目に止まった。 駐車場の端っこにポツンという感じで停車している。(ん?) ディミトリの直感が何かを告げた。懐にある銃を握りながら車に近づく。 見た目には普通の車だし、取り立てて目立った外観はしていなかった。(んんん……) 車には誰も乗っていないし、荷物が有る訳でも無い。しかし、何か変なのだ。 車の周りを回って正面に来た時に、何にピンと来たのかが分かった。(ふ、ナンバープレートが前と後ろで違うじゃねぇか……) これはニコイチと呼ばれる盗難車だ。ナンバープレートを変更しているのは、発覚を遅れさせ

    Dernière mise à jour : 2025-03-03

Latest chapter

  • クラックコア   第087-1話 代替品の選択

    大通りの路上。 田口兄が車でやってきた。一人のようだ。「よお……」「どうも、迷惑掛けてすいません……」 ディミトリは憮然とした表情で挨拶をした。 田口兄は愛想笑いを浮かべながら、自分の問題を解決してくれたディミトリに感謝を口にしていた。「……」 ディミトリは田口兄の挨拶を無視して車に乗り込んでいった。「俺の家に帰る前に寄り道してくれ」「はい」 田口兄は素直に返事していた。年下にアレコレ指図されるのは気に入らないが、相手がディミトリでは聞かない訳にはいかない。 何より怒らせて得を得る相手では無いのを知っているからだ。「何処に向かえば良いですか?」「これから言う住所に行ってくれ……」 そこはチャイカたちが使っていた産業廃棄物処分場だ。 確認はしてないがそこにジャンの所からかっぱらったヘリが或るはず。その様子を確認したかったのだ。 処分場に向かう間も無言で考え事をしていた。田口兄はアレコレと他愛もない話をしているがディミトリに無視されていた。 やがて、目的の場所に到着する。山間にある場所なので人気など無い。道路脇に唐突に塀が有るだけなので街灯も何も無かった。 産業廃棄物処分場の入り口には南京錠が取り付けられている。ディミトリは中の様子を伺うが人の気配は無いようだった。「なあ…… ワイヤーカッターって積んである?」 きっと泥棒の道具として、車に積んでいる可能性が高いと考えていた。「ありますよ。 コイツを壊すんですか?」「やってくれ」 田口兄はディミトリに初めてお願いされて、喜んでワイヤーカッターで南京錠を壊してくれた。 後で違う奴に付け替えてしまえば多分大丈夫と考えていた。 中に入るとヘリコプターは直ぐに分かった。ヘリコプターは処分場の中程にある広場のようになった真ん中に鎮

  • クラックコア   第086-2話 同類の事象面

    『はい……』「帰りの足が無くて往生してるんだ」『はい……』 ディミトリは電柱に貼られている住所を読み上げた。田口兄は十五分程でやってこれると言っていた。『あの連中は何か言ってましたか?』「ああ、鞄を返せとは言っていたが、それは気にしなくて良い」『どういう事ですか?』「話し合いの最中にバックに居る奴が出て来たんだよ」『ヤクザですか?』「そうだ」『……』「ソイツの組織と別件で前に揉めた事があってな……」『あ…… 何となく分かりました……』「ああ、かなり手痛い目に合わせてやったからな」『……』 ディミトリの言う手痛い目が何なのか察したのか田口兄は黙ってしまった。「俺の事を知った以上は関わり合いになりたいとは思わないだろうよ」『い、今から迎えに行きます』 田口兄はそう言うと電話を切ってしまった。 大通りに出たディミトリは、道路にあるガードレールに軽く腰を載せていた。考え事があるからだ。 帰宅の心配は無くなった。だが、違う心配事もある。(本当に諦めたかどうかを確認しないとな……) 追って来ない所を見ると諦めた可能性が高い。だが、助けを呼んでいる可能性もあるのだ。確かめないと後々面倒になる。 その方法を考えていた。(家に帰って銃を持って遊びに来るか…… いや、まてよ……) そんな物騒な事を考えていると、違う方法で確認出来る可能性に気が付いた。(剣崎が灰色狼に内通者を持っているかもしれん……) ディミトリの見立てでは剣崎は灰色狼に内通者を作っていたフシがある。 灰色狼は日本に外国製の麻薬を捌く為

  • クラックコア   第086-1話 紳士的な話し合い

    隣町の路上。 店を出たディミトリは、大通りの方に向かって歩いていった。なるべく人通りが或る方に出たかったからだ。 彼らが追撃してくる可能性を考えての事だった。相手が戦意を失っている事はディミトリは知らなかった。だから、追撃の心配は要らなかった。 だが、違う問題に直面していた。(う~ん、どうやって家に帰ろうか……) 学校帰りに大串の家に寄っただけなので、手持ちの金は硬貨ぐらいしか持っていない。ここからだとバスを乗り継がないと帰れないので心許ないのだ。(迎えに来てもらうか……) そう考えたディミトリは、歩きながら大串に電話を掛けた。 まさか、バーベキューの串で車を乗っ取るわけにもいかないからだ。「そこに田口はまだ居るのか?」『ああ、どうした?』「田口の兄貴に俺に電話を掛けるように伝えてくれ」『構わないけど……』 大串が言い淀んでいた。気がかかりな事があるのは直ぐに察しが付いた。「田口の兄貴を付け回していた車の事なら、もう大丈夫だと言えば良い」『え!』「お前の家を出た所で、田口の兄貴を付け回してた連中に捕まっちまったんだよ」『お、俺らは関係ないぞ?』前回、騙して薬の売人に引き合わした事を思い出したのだろう。慌てた素振りで言い訳を電話口で喚いている。「ああ、分かってる。 連中もそう言っていた」『……』「きっと、見た目が大人しそうだから言うことを聞くとでも思ったんだろ」『無事なのか?』「俺が誰かに負けた所を見たことがあるのか?」『いや…… 相手……』「大丈夫。 紳士的に話し合いをしただけだから」『でも、それって……』「大丈夫。 今回は殺していない……」『&helli

  • クラックコア   第085-2話 安心出来ない奴

    「この通りだ……」 ワンは銃を机の上に置いた。そして、両手を開いて見せて来た。「なら、その銃を寄越せ……」 ワンは銃から弾倉を抜いて床に置き、足先で滑らせるように蹴ってきた。ディミトリはそれを靴で止めた。「アンタに弾の入った銃を渡すと皆殺しにするだろ?」(ほぉ、馬鹿じゃ無いんだ……) 彼の言う通り、銃を手にしたら全員を皆殺しにするつもりだった。 ワンはそれなりに修羅場をくぐっているようだ。 ディミトリは滑ってきた銃をソファーの下に蹴り込んだ。これで直ぐには銃を取り出せなくなるはずだ。「鶴ケ崎先生はどうなったんだ?」「おたくのボスに殺られちまったよ」「……」 どうやら、灰色狼は組織だって動いて無い様だ。誰が無事なのかが分かっていないようだ。「それでボスのジャンはどうなったんだ?」「さあね。 ヘリにしがみ付いていたのは知ってるが着陸した時には居なかった」「殺したのか?」「知らんよ。 東京湾を泳いでいるんじゃねぇか?」(ヘリのローターで二つに裂かれて死んだとは言えないわな……) 手下たちは額に汗が浮かび始めた。さっきまで脅しまくっていた小僧がとんでも無い奴だと理解しはじめたのだろう。「ロシア人がアンタを探していたぞ……」「ああ、奴の手下を皆殺しにしてやったからな…… また、来れば丁寧に歓迎してやるさ」 ディミトリは不敵な笑みを浮かべた。 ワンは少し肩をすぼめただけだった。どうやらチャイカと自分の関係を知らないらしい。「俺たちは金儲けがしたいだけだ。 アンタみたいに戦闘を楽しんだりはしないんだよ」「……」 やはり色々と誤解されているようだ。自分としては降りかかる火の粉を振り払っているだけなのだ。結果的に

  • クラックコア   第085-1話  優等生君の豹変

    ナイトクラブの事務所。 ディミトリは弱ってしまった。部屋に入ってきた男はジャンの部下だったのだ。そして、この連中はコイツの手下なのだろう。 折角、滞りなく帰宅できるはずだったのに厄介な事になりそうだ。(参ったな……) ディミトリは顔を伏せたが少し遅かったようだ。男と目が合った気がしたのだ。「お前……」 入ってきた男が何かを言いかけた。その瞬間にディミトリは、右袖に仕込んでおいたバーベキューに使う金串を、手の中に滑り出させた。こんな物しか持ってない。下手に武器を持ち歩くのは自制しているのだ。 ディミトリは車で送ってくれると言っていた男の髪の毛を引っ張って喉にバーベキューの串を押し当てる。 これならパッと見はナイフに見えるはず。牽制ぐらいにはなると踏んでいるのだ。 いきなり後頭部を引っ張られてしまった相手は身動きが出来なくなってしまったようだ。何より喉元に何かを突きつけられている。 兄貴と呼ばれた男と部屋に居た残りの男たちも動きを止めてしまった。「動くな……」 ディミトリが低い声で言った。優等生君の豹変ぶりに周りの男たちは呆気に取られてしまっている。 しかし、入ってきた男は懐から銃を取り出して身構えていた。ディミトリの動きに反応したようだ。「え? 兄貴の知り合いですか?」「何だコイツ……」 部屋に居た男たちはいきなりの展開に戸惑いつつ兄貴分の方を見た。「ちょ、待ってくれ!」 だが、兄貴と呼ばれた男が意外な事を言い出した。(ん? 普通はナイフを捨てろだろ……) ディミトリは妙な事を言い出した男に怪訝な表情を浮かべてしまった。「俺は王巍(ワンウェイ)だ。 日本では玉川一郎(たまがわいちろう)って名乗っているけどな……」「ああ、ジャンの手下だろ…… 倉庫で

  • クラックコア   第084-2話 危険な知り合い

    「田口君のお兄さんが鞄を持って行ったって何で解ったんですか?」 大串の家で聞いた限りでは誰にも見られていないはずだ。だが、現に田口の家ばかりか交友関係まで把握しているのが不思議だったのだ。「防犯カメラに田口が鞄を弄っている様子が映ってるんだな」 一枚の印刷された画像を見せられた。防犯カメラと言うよりはドライブレコーダーに録画されていたらしい画像だ。 黒い革鞄と田口兄が写っている。それと車もだ。ナンバープレートも写っていた。(泥か何かで隠しておけよ……) 泥棒は車で移動する時にはワザと泥などでナンバープレートを隠しておく。防犯カメラに備えるためだ。「鞄を返せと言えば良いだけだ」「鞄の中身は何なの?」 何も知らないふりをして質問してみた。「中身はお前の知ったこっちゃない」 男はディミトリをギロリと睨みつけながら言った。「まあ、そんなに脅すなよ。 中身はそば粉と子供玩具と湧き水を容れたボトルさ」「?」 子供騙しのような嘘だとディミトリは思った。「この写真を見せながら言えよ?」 ボス格の男はそう言うと何枚かの写真を投げて寄越した。 写真には田口と田口兄。それと一組の夫婦らしき男女の写真と、小学生くらいの女の子の写真があった。田口の家族であろう。 最後は故買屋の防犯カメラ映像だ。鞄の処理の前に銅線を売りに行ったらしい。 普通の窃盗犯であれば仕事をした後は暫く鳴りを潜めるものだ。そうしないと探しに来る者がいるかも知れないのだ。(ええーーーー…… 素人かよ……) 余りの幼稚な行動にめまいがしてしまった。「そば粉なら、また買えば良いんじゃないですか?」 ディミトリは話の流れを変えようと言い募った。 窃盗した後に迂闊な行動をする馬鹿と、見張りも立てずに取引物をほったらかしにする素人など相手にしたくなかったのだ。「そば粉は別に良い。 ボトルを返せと言えば良い……」 ここで、ピンと来るモノがあった。(そば粉だと言う話は本当だろう……) 見つかった時の言い訳用だ。拳銃が玩具だというのも本当だろう。万が一、職務質問で見つかっても警察が勘違いだと思わせることが出来るはずだ。 ボス格の男が色々と蕎麦に関してのウンチクを並べているがディミトリの耳に入って来なかった。(だが、ボトルの中身は…… 麻薬リキッドだな……) ディミトリはボトル

  • クラックコア   第084-1話 見かけは優等生

    大串の家の近所。「いいえ、別に友達ではありません……」 ディミトリは警戒して言っているのでは無い。本当に友人だとは思って居ないのだ。「でも、田口のツレの家から出てきたじゃねぇか」 男の一人が大串の家を顎で示しながら言った。 これで男たちが田口を尾行して、彼が大串の家を訪ねるのを見ていたと推測が出来た。「学校でクラスが同じなだけです……」 ちょっと、面倒事になりそうな予感がし始め、ディミトリは警戒感を顕にしていた。「ちょっと、オマエに頼みたいことが有るんだ」 男が手で合図をすると車が一台やって来た。やって来たのは白の国産車だ。 大串たちの話ではグレーのベンツだったはずだが違っていた。「ちょっと、付き合ってくれ」 開いた後部ドアを指差した。「クラスの連絡事項を伝えに来ただけで、僕は無関係ですよ?」 妙齢のお姉さんであれば喜んで乗るのが、おっさんに誘われて乗るのは御免こうむるとディミトリは思った。「田口に届け物を渡して欲しいんだよ」「それなら、おじさんたちが直接渡したらどうですか?」 ディミトリは尚もゴネながら逃げ出す方法を考えていた。「良いから。 乗れって言ってんだろ?」 ディミトリを知らないおっさんは頭を小突いた。瞬間。頭に血が上り始めた。(くっ……) だが、人通りもあって我慢する事にしたようだ。今はまだディミトリは冷静なのだ。ここで、喧嘩沙汰を起こすと警察が呼ばれてしまう。それは無用な軋轢を起こしてしまう。 それに相手は中年太りのおっさんが三人。ディミトリの敵では無い。チャンスはあると思い直したのだった。(周りに人の目が無ければ、コイツを殺せたの……) ディミトリは残念に思ったのだった。 こうして、ディミトリは大串の家から出てきた所を拉致されてしまった。 連れて行かれたのは中途半端な繁華街という感じの商店街。端っこにあるナイトクラブのような地下の店に連れ込まれた。 まだ、開店前らしく人気は無かった。その店の奥にある事務所に連れ込まれた時に、白い粉やら銃やらをこれ見よがしに置かれているのを見かけた。(ハッタリかな……) まるで無関係の奴に見せても益が無いはずだ。ならば、ハッタリを噛ませて言うことを効かせようという魂胆であろう。 ヤクザがやたら大声で威嚇するのに似ていた。「よお、坊主…… 済まないな……」

  • クラックコア   第083-2話 体質の問題

    「それでマンションに忍び込んで、各階の電線を盗みまくっていたらしいんだけど……」「マンションって屋上にエレベーターの機械室があるじゃん?」「ああ」「そこに入った時に鞄が落ちてたんだそうだ」(いや、それは隠してあると言うんじゃないか?) ツッコミを入れたかったが話を済ませたかったので続きを促した。「工事道具を置きっぱなしにしたものかと思ったんだよ」 鞄の上部にスパナやレンチなどの道具が入っていたそうだ。それで勘違いしたらしい。 こんな物でも故買屋は引き取ってくれるのだそうだ。「それで儲けたと思って鞄と電線を持って帰ってきたんだ」(何故、その場で確認しないんだ……) チラッと見ただけで済ませたらしい。ディミトリのように疑り深い奴なら鞄をひっくり返して中身を確かめるものだ。「でもって、車に戻って中身を全部見たら、拳銃と白い粉が入っていたんだよ」 そのセットはどう考えても犯罪組織に関わり合うものだ。「どう考えても様子がおかしいから、兄貴たちはビビっちまってロッカーに隠したんだってさ」 元の場所に戻しに行こうとしたが、車がやって来るのが見えたので慌てて逃げたらしい。(受け渡しの途中だった可能性が高いな……) 金と物の交換を別々の場所で行い、お互いの安全を図る方法だ。警察の手入れを受けても金だけだと検挙出来難いからだ。 何度も取引をしている組織同士なら安全を優先するものだ。 普通は見張りを配置しておくものだが、それが無かった様子だった。何らかの事情で人手不足だったのかも知れない。「その時には周りに何も無かったらしい」(でも、見落としがあったから今の状態だろうに……)「安心していたら何日か経ってから監視されるようになったんだよ」(所詮は素人が見回した程度だからな……)(時間が掛かったのは監視カメラか何かに映っていたのか?) 恐らくは車などに積まれているドライブレコーダーから足が付いたのではないかと考えた。廃墟のマンションに防犯カメラは設置されていない可能性が高いからだ。「で、具体的に何か言って来たのか?」「いや、ただ付けられただけみたい……」 要するに何もされて居ないのに、勝手に怖がっているだけのようだ。ディミトリは呆れてしまった。「何かしてくるようなら、その時に相談に乗るよ……」 何も要求されていないのなら、何も言う

  • クラックコア   第083-1話 小遣い稼ぎ

    放課後。 その日一日を平穏無事に済ませたディミトリは帰り支度をしていた。そこに大串が再びやって来た。「なあ……」「行かないよ?」 大串の思惑が分かっているディミトリは素っ気無く言った。「まだ、何も言ってないじゃん……」「田口の兄貴に関わる気は無いよ」「じゃあ、せめて田口の話だけでも聞いてくれよ」「そう言えば今日は田口が来てないな……」 ディミトリが周りを見渡しながら言った。興味が無かったので田口が居ないことに、その時まで気が付かなかったのだ。「ああ、放課後に俺の家に来ることになっている」「そうなんだ」「お前が田口の家に行かないと言ったら、俺の家で相談に乗って欲しいって言ってきたんだよ」「だから、面倒事に関わる気は無いんだってば」「いや、アドバイスだけでも良いと言ってる」「……」「かなり困っているみたいなんだよ」「なんだよ。 情け無いな……」 大串の説得に話だけでも聞いてやるかとディミトリは思った。 それでも手助けはやらないつもりだ。迷惑を掛けられた事はあるが助けてもらった事など無い。いざとなったら、誰かが助けてくれるなどと考えている甘ちゃんなど知った事では無いのだ。(悪さするんなら覚悟決めてやれよ……) そんな事を考えながら、大串と連れ立って彼の家に向かう。 ディミトリはその間も通る道を注意深く観察していた。彼には警察の監視が付いていたはずだからだ。 ところが最近は見かけないと言っていた。恐らく公安警察の剣崎と対峙したあたりから監視が外れているようだ。 ディミトリには何故剣崎が自分を捕まえないのか分からなかった。(まあ、面倒臭そうなら剣崎に投げてしまう手もあるな……) 剣崎が冷静を装ったすまし顔を困惑するのが浮かぶようだ。ディミトリは少しだけほくそ笑んだ。 大串の部屋に入ると田口が暗そうな顔をして座っていた。「やあ」 ディミトリはなるべく明るめに挨拶をしてやった。 まずは話を聞くふりをする必要がある。マンションに忍び込んだ様子から聞き始めた。「兄貴たちは銅線を集めにマンションに行ったんだ」 田口が話している廃墟マンションは何処なのかは直ぐに分かった。 川のすぐ脇にある奴で何年も工事中だったと話を聞いている。工事をしている業者が倒産してしまい、途中で放棄状態になっているマンションなのだ。 そこに田口

Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status